2014/04/07

繭 mayu【ショートストーリー2006】


最近きてくれているお客さんが、10年ほど前に私が三年ほどやっていた詩のイベント
「Words...」の出演者だったと判明

もちろんお客様の方も同一人物だとはわからずにさろんに来てくれた。

ご縁て不思議。

久々昔の文章を引っ張りだしていたら、なんだか今にも通じるようなショートストーリーが出てきたので良かったらお時間あるときにでもどうぞ♪

Words...復活させたいのだ。コトバが持つ力にいまもなお、惹かれ続けているから。

これから時々新しいもの、古いもの、またコトバをのせていこうかなと思います。

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かしこ

(memo: まだ書き始めたばかりの頃の文章。
今回のアップの際、元々はラジオドラマ用に書いた物なので本来台詞の前入っていた名前をあえて消してみました。台詞はマユからはじまり、交互に話しています。
読みにくかったらごめんなさい。本日再掲載の際に一部修正しています。
中村市は現在「四万十市」になっていますが、そのままにしています)

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「繭 mayu」 





繭。 



それは白い糸が紡ぎあげていく一つの粒。 



虹の切れ間に 其の笑顔をのせる 



つるっと滑って なんだか滑稽に思えてわらった。 




何かとろんとしていて ふわっと柔らかな 



そんな笑顔に出会ったのは 去年の夏の事。 



凄く、大切なひと。でも言葉は時々人の気持ちを絡まらせる。 




独り旅にでよう。この糸の絡まりをほどくために。



そう思ったのは4日前、そして一昨日の夜、チケットと小さな鞄をもって、



私は四国の高知県、中村市という小さな街にいた。





9月。まだ残暑が残る暑さ。太陽が昇っている間はずっとじっとりとした暑さが続く。 




自分の呼吸しか聞こえないなかマユはひとりで考え事をしながらまる二日間、


朝早くから日が暮れるまで田舎道を歩いていた。





周りは本当に緑しか無い。でも空気がとても気持ち良い。 





ぼんやりと遠くを見るトキオを見つけたのは蝉時雨が降りやまない緑の林。



こっちにきて二日目の夕方だった。 





話し掛けたのは昨日も同じ時間にここで見かけて居たから。





それから、どことなく、彼に似ていたから。 





「何、してるの?」 



「、、、、、夕焼け、見てた。」 



「夕焼け。」 



「そう」 


「きれいだね」 




「だろ?」 






指を指されて見た先にあった空は丁度日が傾きかけ空をいつくもの層の



鮮やかなオレンジ色に染めて居た。 






きれい。




、、、、、でも。 






初対面なのに、そして明らかに私の方が年上なのに。 




敬語、使わないんだ。 





マユは少年の口ぶりにちょっと口を尖らせたが、気付かないようだ。



少年は口調を変えず続ける 




「でもさ昨日、本で知ったんだけど、夕焼けのこのオレンジとかアカイ色は


空気中の塵に太陽が反射して光って見えてるだけなんだって。



だからこの夕焼けもむちゃくちゃ汚いものを見てるって事だ。」 







「ふうん。そうなの?きれいにみえるのに」 





「うん。だからさ、きれいにみえるからってきれいだってことじゃないってことだ。


現実は一体何処にあるんだか、時々わかんなくなる。」 




「たかが夕焼けで君はショックを受けてるみたい」




「ショックじゃない。現実だ」 





真面目ぶった言葉にマユは吹き出す 



「ぷっ。くくく。」 




「なんだよ」 



「いえいえ。笑って御免。


なんだか自分が悩んでることとか馬鹿馬鹿しく思えてきた」 




ちょっと親しみを感じる。





彼をみながらマユは自分でも驚くほど滑らかに、話し続けた。





「昨日からまる二日間、此の街歩いてた。


私、生まれも育ちも札幌だから、このなんていうか全体的に



熱さに溶けた感じが新鮮に見えて。 




朝起きたらアヒルががあがあいって玄関からついてきた。


朝が明けて行くのを肌で感じ乍らずうっーと、歩き続けて、、、。 




この町のなかだけ時間がものすごくゆっくり流れているみたいで。不思議。」 





「そうだな。タイムトリップした感じ。



自然とあったかい人間と、生き生きした動物たちがいて。なんか、飽きないよな」 





「うん、本当。」








「いつからこの街にいたの?」 




「おとつい」 


「おれも」 



「え。この街のひとじゃないの?」 



「違うよ。なんで?」 



「凄い日に焼けてるから」 



「それはお互い様、だろ。」 



「嘘?!」 





あわてて手鏡を覗き込む。




この二日、そんなことも忘れていたんだ。





みると誰だこれ、というほど焼けている自分に気づいた。 





「あーーー。お肌がさがさになっちゃう、、、。」 




「鏡、みてなかったの?


それに俺だって色々考えるとこがあってここに来てるんだよ。」 






「えらそーに」


「えらいんだよ」 


「なんだそれ?」 




あはは、と二人、笑う。






「なんだか今会ったばかりとは思えない会話」 


「だな」 



笑顔が、太陽みたいだ。そんなところも彼に、似てる。 





「あたしさー」 



「うん」 



「大好きな人がいてさ」 



「げ、愛の告白!?会ってまもないのに!」 



「あんたじゃないよ」 



「だろうね 笑」 






「そのひとさー。わかりにくいんだよねえ。時々イライラする。 



男の人ってさー仕事が大変なのはわかるけどさー何で約束とかまもんないんだろ」 


「仕方ないジャンか!!」 


「ん?」 



「男には男の大変さがあるんですー!」 



「あんた、仕事してんの?」 



「もちろん。コピーライターやってます。まあ、フリーだけどね。」 



「あれ、てっきり学生かとおもってた」 



「、、、、、まあ、若くみえるらしいけど、一応35歳ですよ。」 



「げ、、、、、!年上なんだ!!ごめん。にじゅう、4、5の若造かと」 



「いーえ。まあ光栄ですわ。まだまだいけるってことでしょ」 



「ごめん」 




「あやまることじゃないよ、、、、、。


俺さ、この間奥さんに出て行かれちゃったさ」 







「へ?結婚してんの?!」 






「うん。3ヶ月前に籍いれてさ、俺としてはこれで安心、


さあメイちゃん、あ、俺の奥さんの名前ね、のために働くぞーーー!とかおもってさ、



まあ、お金もためたかったし、前より倍仕事入れちゃったわけ。



そしたらなんだかさー」 



「なんだか?」 






「なんだかねー。信用してもらえなくなったというかさ。


まあ、帰りがね、毎日明け方まで仕事しちゃってたもんだからね。



終わらないんだもん、仕事がさ。だから外に女がいるんじゃ?とか



勘ぐられたみたいでね。仕方ないと言えば、仕方ないと言うか。」 








「で、出て行っちゃったんだ」 





「そうみたいだねえ。俺浮気なんてしてないのにねー」 



「ほんとに?」 



「ほんとに。」 



「そっかー。そういう人もいるんだ。」 



「そういう人?」 



「いや、なんかさ、男って浮気するイメージ。」 



「失礼なイメージ」 



「そう、勝手だよね、女ってさ」 







「どうして高知になんてきたの?」 


「まあ、自分を戒めようと思って」 



「戒め?」 



「奥さんの気持ち、分かるような気がするよ。」 



「、、、、、。」 



「私も、信じられなくなりそうで、恐くて。」 



「、、、、、。」 








「でもさあ、それって自分の問題なんだよね、結局は。」

「自分の。」 


「そう。だってね、昔の人ってさ、テレパシーで暮してたって聞いたこと、無い?」



「テレパシー?」 



「まあ、其の言葉がぴったり来るのかわかんないけどさ、



昔は言葉なんて無くても人は暮らせたって。



気持ちが、自然と通じてたって、聞いたことある。



本当かどうかは、わからないけどね。」 





「、、、、、」 





「たとえば、好きだって気持ちがあってね、今は好きだっていわないと伝わらない!



とかもめたりするけどもさ、そんなことは、昔の人はなかったんだなーって。」




「好きだ、って、目を見たら、伝わっちゃうんだ。」 





「でもキライだーとか思ってもつたわるんだろ?」 








「そう。でも、嫌いなんて気持ち、無かったんじゃ無いかな、


もともと、人間ってもおっとピースフルにつくられた気がするもん」 



「ピースフル!!」 



「人が真剣に話ししてんのに変なとこで突っ込まないで!」 



「、、、ごめん。」 









「、、、、あはは」 


「え?」 



「なんか、私の彼氏と似てるなっておもっちゃった。彼もね、そういう人。



悪気が無くて暖かくて。いつも人のために駆けずり回って。そんなひと。」 




「、、、、、。」 



「なんだろ。此処にきてリフレッシュしたら些細なことで怒ってた自分に


逆に腹がたってきちゃった。来る前はさー、



なんだよーアイツなんてもう、知らない!!とか勢いづいてたのにね。」 





「、、、、、。」 








「自然って凄いよね」 


「うん。」 



「なんか、おっきな力に降伏、ってかんじ。」 



「、、、、うん。」 



ふと、時間がとまる。刻々と変わりゆく自然に目を奪われる。

同じときを誰かと共有するってことは

ほんとうにしあわせなことなのだ。

それが、大切な人であれば、よりいっそうのこと。







「私、信じられる強い心が欲しい。


もっと、この自然の一部になっておっきな愛で包み込めるような。



そう思って、ずっと、歩いてた。この二日。」








「、、、、大丈夫だよ。」 


「え?」 



「大丈夫だよ。」 



「この夕日もさ、きれいなだけじゃなくて実は、ちっぽけな塵に



太陽が反射しているだけの集合体だったりするわけじゃん」 



「、、、。」







「でもさ、其の塵は絶対必要なものなわけじゃん、



夕焼けがきれいに見えるためにさ。」 




「、、、。」 





「日常ってそんなきれいなことばっかりじゃないよ。



まして結婚なんてさ、相手のヤなとこも全部みえちゃうわけ。」 





「うーん」 





「でもさ、そんなとこ含めてメイちゃんのこと、俺、大好きなのね、


きっと彼女もそうだと思う。」 






「自信家だねえ」 






「そうだよ。それが俺のいいとこだしさ。

でも、俺もあんまり器用じゃ無いから、


メイちゃんはずっと側にいるもんだと思ってたわけ。



やっぱ好きあってるわけだからさ。



すきすきっていわれたことが絶対だと思っちゃうわけ。男ってバカだからさ」




「そんなもん?」 




「そんなもんだよ。やっぱ女の方が、断然強い。



だから知らずのうちにいっぱいメイちゃんを我慢させてたんだな。



あんま、出さないヤツだからさ、俺のメイちゃん。」 





「俺の」 


「そう、俺のいっとう大切な人。



でも無理させてたこともさ、居なくなってはじめて気付いちゃった、俺」






「バカだね」 







「バカだよね」 








「大丈夫だよ」 


「え?」 



「メイちゃんは、きっと、戻ってくる。」 



「、、、、、。」 







「今の、気持ちを、ちゃんと、、、言葉で伝えてあげて。


、、私の彼もね、嘯いてばかりでいっつも冗談半分で、



好きだなんて私にいったことさえ、実は無いの、まだ。」 


「、、、、、、。」 









「でも、聞こえるんだ、その言葉の間に、


“ありがとう”とか“うれしい”とか、“好きだよ”、とか。」 



「、、、、、、。」 








「きっと、メイちゃんにも伝わってるよ。ただ、こころの声が邪魔してるだけ。」 


「こころの声?」 



「そう。たまに五月蝿いの。



信じて良いのかなとかいう不安がちょっとでもでてくると、



これ嘘なんじゃないの?とか、自分の声が邪魔するの。



でもそれは彼のせいじゃないって、私の問題なんだって気付いてる



本当の意味は、ちゃんと聞こえてるのにね。



ああ、私、ちっちゃいなーーーーーー!!!」 







「、、、、くくく。」 


「え?」 



「あははは!」 



「え?」 



「いやいや。何でも無い。名前、なんていうの?



未だ、聞いてなかったな、と思って。




俺、トキオ。高瀬トキオ」 




「トキオ、、、、。」 


私はマユ。時田マユ。」 



「マユ、、、?」 



「うん」 






「、、、、、、、、。」 







「、、、、、、、、、。」 







「俺、、、、、、


弟がいてさ、そいつが、俺にもまして不器用なやつなんだ。



ほんと、兄の俺でさえ時々もどかしくなる。



良いやつだし普段はスッゲー喋る癖に、女の子の前行くとだめでさ、



それでいつもダメになってる事が多くてさ。なさけねーなーって思ってみてたよ。」




「、、、、、。」








「それがやっと去年の夏、すっげー好きな子できた、とか喜んでてさ、



その子は分かってくれるんだってさ、



自分の事をひとつも疑いもせずに笑っててくれるって、さ。」 






「、、、、、。」 








「なのに4日前かな、仕事で忙しくて彼女に電話するっていってたのに


電話するの忘れちゃって。



それから連絡とれなくなって、



彼女の友人に聞いたら旅行にいったって。


それから、あいつ、眠れないらしいんだ。

浮気してるって思われたみたいだって、この世の終わりみたいな顔してたって。」 



「え、、、、、、?!」 








「電話、待ってるよ、アイツ。」 









「、、、、、、、メイちゃんも。」 



「え?」 








「兄貴の奥さんに相談されたっていってた。


勢いで家、出てきちゃったけど戻るタイミング、



どうしたら良いか分からないって。」 





「、、、、、、、、、。」







「きっと寂しがってると思うのに、って、言ってたって。


私の太陽みたいってメイちゃんは兄貴の事言うんだよ、って良く聞いてた。



そんな素敵なお兄さんに会ってみたいなって、彼に言ってたの。」




「、、、、、。」 









「本当に太陽みたいな人で良かった」 







「、、、、、、ありがとう」 









「今度は」 



「サッポロでこの夕日を見ようよ。4人でさ」 



「、、、、、そうだね」 










拝啓、高知県はいいところです。



あったかいし夕日がきれいだし。



でもメイちゃんと一緒に来なかったことを後悔しています。ごめんなさい。


メイちゃん、もう、悲しませたりしないよ。


明後日の夕方、帰るから俺の好きなコロッケ、作っておいてください。



目玉焼きでもいいです。


あと、俺の阿呆な弟に伝言お願いします。


今度の彼女はすごく良いやつみたいだから 



今度4人で夕焼けを見乍らビールでも一杯やらないか?と。 







「繭」2006 copyright Ree. 

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